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  • hiroyuki kira

災害時のロジスティクスを考える①

新年早々悲しいニュースが飛び込んできました。北陸を中心とする日本海沿岸の大きな地震。元日のゆっくりした時間を家族で寛いでいた矢先のはずです。もともとこの地域に地震は多かった印象があります。特に能登地方は古来から交通が分断されやすい地理です。交通の不便さでは東日本大震災の三陸沿岸とも似ています。ひとたび大きな地震が起きれば交通だけでなくライフラインも分断されるとことは想像に容易いと思います。

 

NHKの避難指示は早かったし毅然としていました。十分に東日本大震災の経験が活かされていたように思います。民放各社も追随して報道していましたが、翌日には全局ケロッと他愛もないバラエティに切り替わっていました。これを見て被災者の気分が晴れることはないでしょう。ただし全てのTVが災害状況を放映すればいいとも思いません。大騒ぎのレポーター達がこぞって被災地に集中しては被災者や救助の迷惑にもなります。まずはNHKで十分ではないでしょうか。NHKもその使命を十分に理解していることに疑いはありません。

 

ところで今回の救援救助で問題となっているのは交通とライフラインの分断です。救援物資を届けたくても道路が分断されている、救助隊がたどり着けない、正しい情報を把握していない、情報を一元管理出来る機関がない、など様々な問題が浮き彫りになっています。

 

そこで重要となるのはロジスティクス、さらに言えば「災害ロジスティクス」です。

 

今更ではありますが、「ロジスティクス」とは何でしょう。以前述べたことがありますが、辞書を引けば「兵站学」とあります。現在では一般的に、製品(物資)やその情報の移動と保管に関連する「戦略的な」活動全体を指します。これは製品の完成から最終的に消費者に届くまでの過程を含み、生産、保管、輸送、在庫管理、ディストリビューション、配送、そして顧客へのアフターサービス提供まで幅広い範囲をカバーします。ロジスティクスはビジネスモデルの中心的な要素であり、利益を生み出すにはこの部分を合理的かつ効率的に管理することが重要です。

 

それでは「災害ロジスティクス」とはどういうことでしょう。災害ロジスティクスとは、必要な物資を必要な場所へ迅速かつ的確に供給するための戦略的活動を指します。災害直後の救援活動から、復旧復興の作業に至るまで、災害対策のほぼ全てと関連します。重要なのは、災害直後は被災者のニーズが集中的に一気に高まり、それらを満たすためには迅速な物的支援や情報提供が必要になります。このプロセス全体を把握しつつ統制すると同時に、滞ることなく流すことが災害ロジスティクスの主な目的と言えます。ところが今回の能登地方の状況を見ても、それがいかに難しいかが分かります。何故なら道路やライフラインが機能せずに、通常のロジスティクスが麻痺してしまうからです。そのためには平時からの災害計画と備えが必要です。

 

一般的に災害ロジスティクスには3つの重要な機能があると言われています。

第一に災害発生後「即時対応」です。水、食料、薬、医療器具、トイレや寝具など、必要な物資の確保と配送を「できる限り迅速に」被災者に届けることです。

 

第2の機能は、継続的な復旧作業の支援です。資材、器具機械、荷役など、作業に必要な物資や人の確保とその輸送が含まれます。今回は第一の「即時対応」を行うと同時に、並行して復旧活動を行う必要があったはずです。

 

第3の機能は、災害発生の可能性がある地域での予測と防災です。地震や津波など自然災害に対する防災活動と、早期警戒システムの設定、適切な設備と医療物資、食料の備蓄などが含まれます。

第3にしましたが、いつどこで発生するか分からない災害に備えるためには、予測と平時からの防災訓練が一番重要です。防災訓練と言っても地域の避難訓練だけではありません。国家としてどのように緊急時にロジスティクスを機能させるかを計画しておくことが最も重要です。この計画は果たして十分だったのでしょうか。

これらの機能を効率的に果たすためには、予測、計画、現場調整、そして適切な管理が必要です。

 

災害が発生した場合、まず一番重要なのは人命の救助です。一般に72時間が生死を分けるタイムリミットと言われていますが、季節や地域特性を考えると、もっと短い場合も多いと思います。特に今回の能登地方のように家屋の倒壊が起こり、住民年齢の高い地域では72時間などと悠長なことは言っていられません。災害直後から最悪の事態を想定して、政府主導で一気に急行することが大事です。2次災害の危険から、そのタイミングに二の足を踏むこともあるのですが、2次災害の危険も平時から予想予測しておかなければなりません。特に能登地方のように交通インフラが分断されやすい地域は、災害のための物資を常日頃からその地域に蓄えておく必要があります。また、災害によって荒れた路面も走行できるような車両は絶対に必要です。津波の心配がないなら、高速船など海路も視野に入れておく必要もあります。東日本大震災における三陸沿岸の教訓が果たして生かされていたのでしょうか。確かに陸上自衛隊のホバークラフトで重機を運んでいますが、最初に陸揚げされたのが地震発生3日目となる1月4日朝です。すでに65時間以上経過してからです。

 

繰り返しになりますが、これらで最も重要なのは、平時から適切な計画と準備が不可欠なのです。そしてそれがまさに「災害ロジスティクス」であることを認識することが重要です。

 

災害が発生した後、被災地の人々は食料、医療品、衣料、住居などの生活必需品を必要とします。被災地へのこれらの物資の迅速で適切な配送は、被災者の生活を維持し、さらなる健康被害や精神的苦痛を防ぐためには必要不可欠で、このような状況下における物流活動を効率的に行うのが災害ロジスティクスの役割です。しかし道路が陥没したり亀裂が入っていては救援物資や救助隊の派遣も儘なりません。例によって今回も台湾の行動は早かったです。「フォーカス台湾」などによれば、台湾は内政部消防署(日本の消防庁に相当)が1月1日夜、地震発生を受けて国際人道救援に当たる医師を含む160人規模の救助隊の準備を完了し、日本側の支援要請があり次第、チャーター機で派遣する予定でしたが日本側から断られたとのことです。或いは国際的な問題に配慮したのかも知れませんが、人命が掛かっている緊急時に政治的問題を持ち出すなどあってはならないことです。首相自ら「人命第一」と言っていたはずです。であれば、どこの国からも「訓練された」救助隊を受け入れ、道路の応急措置的復旧や人命の救助に当たってもらうべきでしょう。こういう時こそ日頃問題視されている「オスプレイ」他、ヘリコプターが活躍するべき時です。日本政府は災害名のラベリングや対策本部の設置などはさっさと行いますが、自衛隊の派遣に時間が掛かり過ぎています。ヘリでの救助隊派遣や地元消防団での人命救出を行いつつ、人海戦術で(応急的でも)「道路の復旧」を48時間以内に行うべきだったのではないでしょうか。もちろん居た堪れなく現場にやってきた個人ボランティアの制御にも人数が必要です。災害ロジスティクスには交通インフラが不可欠です。そういう点で政府は各自治体からの応援要請を待つのではなく、情報を集約して政府主導で救助班や復旧隊を編成しなければなりません。これには常日頃の準備が欠かせません。あらゆる災害を想定して計画と訓練を行っておくのです。「想定外」などという逃げ口上は決して許されないのです。

 

さらに災害ボランティアの受け入れについてですが、今の日本は日本各地で災害が起こればボランティアが挙って集まります。素晴らしいことです。しかしDX化が全く進んでいない地域行政は、ほぼマニュアルでそれらの受け入れや割り当てを行っている現状があります。ボランティアを使いこなせないので、受け入れに二の足を踏む自治体もあると聞きます。しかし今は災害ボランティアの管理に特化した株式会社コンサイドのJoyLinks(https://www.conside.info/joylinks) などのシステムも紹介されています。各地域のボランティアセンターは早急にDX化を進めるべきでしょう。災害は待ってくれないのです。

 

また、災害後の復興時期においても、災害ロジスティクスは重要な役割を果たします。被災地の人々が通常の生活に戻れるよう支援するためには、建築資材や道路再建資材、さらには復旧したエリアへの物資の配送が必要です。このような局面においても、災害ロジスティクスは生活再建を支える大切な要素であると言えます。

 

ところで企業の改善活動や品質管理にPDCAサイクル(PDCA cycle、plan-do-check-act cycle)の手法があります。災害の場合はPlan(防災計画の立案)→ Do(防災訓練の実施)→ Check(防災計画の見直し)→ Act(防災計画の改善)となります。

 

Plan(防災計画の立案)にはシナリオ計画法を用います。これは、予測不可能な未来を考慮に入れて、潜在的な脅威やリスクを認識し、防災計画を立案するための方法です。災害ロジスティクスでは、「想定外」の事態が頻繁に発生します。しかし「想定外」が起きるという事は「想定」が甘かった事に他なりません。様々なシナリオを事前に想定し、それぞれに最適な対応策を準備することが重要ですが、今の地方自治体や政府にそれが出来ているでしょうか。ことあるごとに「想定外」を持ち出す行政が多いことは、自分達の能力が低いことを示しているように思えてしまいます。

 

そこで、リスク管理の重要性です。災害ロジスティクスにおいてリスク管理とは、交通が分断されたときや通信がダウンしたときなどの緊急時に備え、リスクを特定、評価、軽減するプロセスを意味します。災害時にはいつどこで何が起こるかわからないため、限界までリスクを見越して軽減策を立て、十分に備えることが必須です。そういう意味では極力物資の輸送に頼らない、各自治体での備蓄も非常に重要になります。これも災害ロジスティクスの一つです。

 

さらに最も重要な要素の一つが、サプライチェーン管理です。通常のロジスティクスが破壊されても、迅速かつ効率的に救援物資を被災地に届けることが何よりも重要です。そのためには、備蓄倉庫から被災地に迅速に供給するための手段を保有しつつ、確実に救援物資を被災地に輸送する緊急ルートを確保したり、日本全国の備蓄倉庫から被災地に供給するための輸送手段の多様化を図るなど、サプライチェーンを強化する必要があります。ドローンや装甲車両などはもはや不可欠でしょう。ドローンは戦争に使うものではないのです。

 

災害時のロジスティクスを考える②に続く

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