外国人旅行者向け消費税免税制度の制度改正について
- hiroyuki kira
- 5月17日
- 読了時間: 4分
2025年度(令和7年度)の税制改正大綱において、政府は外国人旅行者を対象とした消費税免税制度、いわゆるタックスフリー制度の抜本的な見直しを行いました。本制度は訪日外国人による国内消費を促進する目的で設けられてきましたが、制度運用の複雑さや不正利用の問題が指摘されてきました。特に不正利用の問題は深刻です。購入品をブローカーなど第3者に日本国内で引き渡し、ブローカーが海外で売りさばく「プロの転売屋」が横行しており、本来課税されるべき消費税が制度の不正利用により脱税行為が繰り返されているのです。
今回の改正では、免税の適用方式、対象となる物品の範囲、免税販売の手続きに関して、包括的な制度改革が行われました。さてどのような改正が行われるのでしょうか。詳しくは財務省のHPに掲示されていますが、分かりやすく要約してみます。
1. 免税方式の転換:リファンド方式の導入
これまで採用されていた「即時免税方式」は、購入時に消費税が差し引かれる仕組みであり、免税店にとっては事務負担が大きく、出国前に免税となるため不正利用に利用されやすいという問題がありました。そこで、今回の改正では、購入時に消費税を転嫁した国内取引と同価格で販売し、出国時に税関でその物品の持ち出し確認を受けた後(購入から90日以内に限る)、消費税相当額を返金する「リファンド方式」へと転換されることになりました。海外旅行でこの方式によりGSTの返金を受けたことがある、という方も少なくないはずです。この方式では、旅行者が物品を税関に提示し、その確認を受けることで、返金が可能となります。また、税関は確認結果を免税販売管理システムに登録し、免税店と情報を共有します。このような仕組みによって、免税店の事務負担が軽減されるとともに、制度の透明性が高まり、不正利用の抑制が期待されています。しかし今後は免税店側が何もしなくていいと言うわけではありません。購入記録情報を免税販売管理システムに共有することには変わりありません。なお、「リファンド」を行うのは税関ではなく、指定された事業者(返還事業者)に委託される予定です。
2. 免税対象物品の範囲の見直し
従来の免税制度では、「消耗品」と「一般物品」との区分が存在し、それぞれに対して異なる購入上限や包装の要件が設けられていました。また、「通常生活の用に供しないもの」といった曖昧な基準もあり、免税店側が用途判断を行う必要がありました。
今回の改正では、これらの制限を撤廃し、物品の区分を廃止したうえで、購入上限額(従来50万円)や特殊包装の義務もなくなりました。さらに、「通常生活の用に供しないもの」という基準も削除されたことにより、免税店が物品の使用目的を判断する必要がなくなりました。一方で、金地金など不正目的での購入が想定される物品については、個別に免税対象外とすることが可能な制度も整備されました。これにより、免税制度の手続きが簡素化されるだけでなく、旅行者の利便性向上も図られることになります。しかし新制度にはデメリットもあります。従来は「消耗品」と「一般物品」を区別して免税店側が用途判断を行う必要がありました。しかしこの区別や判断を行わないとすると、免税店側は外国人の全ての購入記録情報を免税販売管理システムに登録しなければならないという可能性があり、事務作業が却って増えることも考えられます。この点は今後細かい議論が必要になるはずです。
3. 免税販売手続きの見直し
免税販売における手続きも、制度の信頼性と効率性を高めるために見直しが行われました。まず、旅行者に対しては、パスポートおよび上陸許可証の提示が求められ、免税店はそのパスポート番号に基づいて購入記録を管理・提出することが義務づけられました。また、税抜価格で100万円以上の免税対象物品については、その物品を特定できる情報(例:シリアルナンバー)を国税庁に提供する必要があります。さらに、これまで認められていた「別送(旅行者が購入後に自ら海外へ送付)」は原則禁止となり、今後は免税店が直接国外に配送する「直送」のみが認められることになりました。これにより、免税物品の流通管理が一元化され、不正流通の防止に資する制度となっています。
5. 制度の適用時期
これらの制度改正のうち、リファンド方式の導入および免税対象物品の範囲に関する見直しは、2026年11月1日以降に購入された商品から適用されます。また、「別送」の禁止措置については、2025年4月1日よりすでに施行されています。
6. おわりに
2025年度の税制改正大綱における外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しは、制度の簡素化と透明性の向上、ならびに不正利用の防止を主眼に置いた重要な改革です。免税店の業務負担が軽減されると同時に、旅行者にとっても利用しやすい制度となることが期待されます。今後は、制度の運用状況を注視しつつ、現場での実務上の課題や国際動向を踏まえたさらなる改善が求められるでしょう。
ロジスティーダジャパンは国内免税制度にも明るい通関業者です。今後免税店の開業など予定されている企業様はぜひご相談下さいませ。
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