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ワシントン条約と高野山

ワシントン条約とは通称で、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」が正式名称です。英語でいうと「Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」、略してCITESですね。


野生動植物の一定の種が過度に国際取引に利用され絶滅の危機に瀕しないよう、これらの種を保護することを目的とした条約です。1973年にアメリカ合衆国の主催によりワシントンにおいて81か国が参加して「野生動植物の特定の種の国際取引に関する条約採択のための全権会議」が開催され、同年3月に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」が採択されました。ワシントンにおいて採択されたからワシントン条約と呼ばれています。先進国及び発展途上国の多くが加盟しており、2020年7月現在で183ヵ国・地域が締約国になっています。


ワシントン条約は3段階の規制を設けており、商取引が禁止されているもの、原産地証明書などがあれば輸入出来るものなどランク付けしています。このランク付けは附属書(Appendix)I、II、IIIによって分類されています。その中では具体的に種も分けられており、それぞれに適切な国際間取引の規制レベルを設けています。掲載されている動物はおよそ5,800種、植物はおよそ30,000種です。なお、国によって種の名前は様々ですが、附属書では全て学名で記されています。輸出入通関時も学術名が求められますので事前に調べておくことが必要です。


ここでは付属書の内容には触れませんが、大きく分けると次のように分類されています。


■附属書Ⅰ

最も厳格な取引規制の対象です。絶滅のおそれのある種で、経済取引によって影響を受けている・あるいは受けるおそれのあるものが掲載されます。原則として、商業目的での取引の一切が禁止されています。学術研究が目的であれば取引することができますが、輸出国・輸入国どちらからも許可書を取得する必要があります。人工繁殖用および条約締結前に取得した標本等の輸入手続きについてのガイドラインも存在し、やはり輸出国と輸入国双方の許可書が必要となります。


■附属書Ⅱ

現在は必ずしも絶滅のおそれはありませんが、国際的な経済取引を規制しないと、今後絶滅のおそれの出てくる種が対象となっています。商業目的の取引が可能ですが、条件付きです。取引の際は、輸出国の政府が発行する輸出許可書が必要となります。日本に輸入する際は管理当局にあたる経済産業大臣の事前確認書をまず取得し、税関に提出しなくてはなりません(ケースによっては通関時確認のみ)。なお、附属書IIの対象種であれば、特例措置で個人の輸出入が可能です。しかしながらやはり条件付きで、生きた個体でないこと・定まった量であることなどが求められます。ただし条件を満たしていれば事前手続きは不要となります。


■附属書III

国際的に絶滅のおそれがある種ではなく、ワシントン条約締結国が自国内での種の保護のために用いるものです。附属書IIIに掲載されていれば、他の締結国・地域も協力を求められます。商業目的での取引が可能ですが、輸出国政府の発行する輸出許可書や原産地証明書などが必要です。なお、日本への輸入手続きは附属書IIを踏襲します。


ファッション製品でよく見られるオーストリッチやクロコダイルのバックももちろん規制されています。


オーストリッチは附属書Ⅰに該当し、商業目的での国際取引は禁止されていますが、養殖施設において人工繁殖をしたものや条約締結前に取得したものはその証明があれば商取引は可能です。輸入(携帯輸入も含む)の際は、輸出国政府発行のCITES輸出許可証および、経済産業省発行の輸入承認証が必要となります。


クロコダイルは附属書Ⅱに該当し、商業目的での輸入は可能ですが、輸入時には、輸出国政府発行のCITES輸出許可証が必要です。


しかし昨今では高級品の象徴だった希少動物の革(エキゾチックレザー)を使用したファッション製品も、時代とともにその価値観が変化しています。

動物素材を使わないサステイナブルなブランドの先駆者であるステラマッカートニーを例外とすれば、アルマーニが2016年3月に、2016-2017年秋冬コレクションから全ブランドで毛皮の使用を廃止するといち早く宣言しました。



2017年10月にはグッチがこれに続き、ミンク、コヨーテ、タヌキ、ラビット、カラクールなど、すべてのリアルファーの使用を廃止すると発表しました。同様にヴェルサーチェ、マイケル・コース、ジミー チュウ、バーバリーなども、次々と脱毛皮を表明。

2018年12月にはシャネルが爬虫類などのエキゾチックレザーと毛皮の使用をやめると宣言しました。



何故数年で急激に高級ブランドの毛皮離れが進んだのか。

理由の一つとしてこれまで決して表に出ることがなかった毛皮の生産工程が、動画サイトやSNSで拡散されたことが挙げられます。実際ミンクやフォックスなどの動物が、生きたまま皮を剥がされる動画は簡単に見ることが出来、多くの人にショックを与え、リアルファーに対する罪悪感・嫌悪感が世間に広がりました。


もう1つは、「エコファー(フェイクファー)」の技術の進化です。

エコファーには、主に異型断面のアクリル短繊維が使われていて、リアルに限りなく近い風合いを表現できるためリアルファーの必要性がもはやないのです。


さらにラグジュアリー市場の価値観の変化です。

ここ数年のモードは、ストリート・ファッションが席巻しており、「ラグジュアリー=毛皮」というバブリーな価値観が減退したことです。いまや多くの世界中の若者にとって、毛皮や皮革より価値の高いものは無限大に存在します。以前はリアルファーを成功の象徴として着ていたアメリカのラッパーやセレブリティも、もはや時代遅れにしか見えません。


動物保護団体の活動も激しさを増しています。

2018年9月には世界各国の動物保護団体がプラダに対して、電話やメールなどで抗議行動を実施。これを受けてプラダは、段階的な毛皮の使用削減を明言せざるを得ませんでした。もはや、多くのトップメゾンにとって、リアルファーを使うことは大きなリスクでしかないのです。


リアルファーの代替品として需要が高まっているのがエコファーですが、日本製が群を抜いていて世界でも高いシェアを誇っています。さらにこうした優れた扁平型アクリル繊維を本物と見紛うようなエコファーに仕上げているのが、紀州の高野口パイルメーカーなんですね。日本人もあまり知らない小さな繊維メーカーが、欧米の名だたるトップメゾンでは引手あまたでエコファーを供給しているんです。


何故高野口パイルメーカーが世界的に認められる超一流の繊維技術を持っているのでしょうか。

平安時代後期から高野山への参詣口だったことから、その名がついた高野口。明治34年には紀和鉄道(現JR和歌山線)の駅が開業し、しばらくは旅館や飲食店、土産物屋などが立ち並ぶ繁華街として繁栄しました。江戸時代から織物が盛んで、農家の主婦たちが自分たちのために手がけた織物は「川上木綿」と呼ばれていました。


やがて、高野口の織物づくりは山間部で耕地の少ない農村の副業として自立するようになり、紀州藩の綿花栽培推奨もあってますます盛んになりました。

明治に入ると、地元の前田安助がスコットランド等の「シェニール織」を元に、一度織り上げた生地を紐状に裁断して再び織り上げる特殊な織物「再織」を創案。

大正初期には、さらに技術研究が進んで「パイル織物」へと発展していきました。アザラシの毛皮と間違えるほどに肌触りが良く、伸縮性に富み、摩擦に強く、保湿性も高い高野口の「パイル織物」は、自動車のシートやインテリア用品等に使われ、日本一の生産高を誇ります。


さらに近年では、毛皮を模したエコファー素材でも注目を集め、国内外の一流ブランドが採用。国内ではあまり知られていませんが、メイドイン紀州高野口のパイル織物は現在の「脱毛皮」に欠かせない役割を担っているのです。


我々もリアル皮革にこだわらず、積極的に高野口パイルの生み出すエコファーを使ってみたいですね。いや、今はSDGsファーというべきでしょうか。


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