20数年前になるが、数か月マンハッタンのリンカーンセンター近くに滞在していたことがある。
感謝祭の後にロックフェラーセンターの巨大ツリーの点灯式を迎え、5番街の玩具屋FAOシュワルツやバーニーズがごった返し、映画で見たのと同じ、最高にテンションが上がるニューヨークのクリスマスとなるのだが、この頃から掲げられたリンカーンセンターの
「The Nuts Cracker」の巨大バナーに「ナッツのクラッカーって一体なんだろう」って思っていた。
ミュージカルにオペラ、ジャズにアイスホッケーやバスケなど、何でも見てやろうと連日ブロードウェイやマジソンスクエアガーデンを徘徊していたが、この日はリンカーンセンターで一番安いチケットを買って、最後部座席から「The Nuts Cracker」を見た。始まって直ぐに「なんだよ、くるみ割り人形のことかー」と自分の無知さに呆れるのだが、その肉体だけで織り成す芸術的な演技に魅了され、クリスマスまでに5回も見てしまった。
「The Nuts Cracker」の主役は子供でメルヘン的なストーリーなので、タキシードとドレスを着た子供連れが圧倒的に多いのだが、見るたびに前方の席にグレードアップしていたダウンを着た日本人のおっさんは自分一人ということに気が付いてからは、分相応な最後部座席に戻って孤独なクリスマスを過ごしていた。
周りが賑やかになるほど孤独が辛くなり、その後ほどなくしてカナディアンロッキーを放浪して英語どころか言葉を発しない日々が続き、スノーボードだけが上達していった。
オペラやミュージカルよりバレエが面白かったのは、セリフがないからと気が付いたのは帰国した後だった。
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