米国の関税引き上げ問題
- hiroyuki kira
- 4月24日
- 読了時間: 5分
アメリカのドナルド・トランプ大統領が掲げる「米国への全ての輸入品に高関税を課す」という無謀とも思える公言が全世界を揺るがしています。関税を利用して自国の貿易赤字の解消と、米国内の産業を保護しようとした政策は、国際的な議論を呼んでいる中、日本から世界の一番手として石破首相の側近である経済再生担当大臣が交渉に渡米し注目されました。これまで一般にはあまり意識されてこなかった「関税」という言葉が、ニュースやSNSでも連日取り上げられるようになり、私たちの生活にも間接的に影響を及ぼすものとして、いやでも意識させられています。ニュース番組やワイドショーなどでも俄か知識のアナウンサーが頻繁に説明をしているので、馴染みの薄い関税について、おぼろげながら分かってきた人も多いのではないでしょうか。
では、今更ながら関税とは何なのか? かなり以前に関税に関する記事を投稿しましたが、その頃と現在では状況が変化しています。
https://www.logistida.com/post/20210202 https://www.logistida.com/post/20210209 https://www.logistida.com/post/20210217
関税とは、外国から輸入される物品に対して課される税金のことです。国が海外から輸入される物品に税をかけることで、国内産業を保護したり、貿易のバランスを調整したりするために使われる政策手段です。たとえば、海外の安価な農産物が大量に入ってくると、日本の農家は価格競争に負けてしまい農業人口が減り衰退してゆきます。そうなると日本国民の食の安全(=安定供給)が脅かされます。そこで、政府は一定の関税をかけて輸入品の価格を引き上げ、国内製品との価格差を縮め、国産品を保護するわけです。
日本における関税の具体例
1. 牛肉・豚肉にかかる関税
日本は農業保護の観点から、食肉に対して比較的高い関税を課しています。例えば、アメリカやオーストラリアから輸入される牛肉には、38.5%の関税が課せられていました(EPAによって段階的に引き下げ中)。そのため、仮に1,000円の牛肉を輸入する場合、関税が加算されて輸入コストは最低でも1,385円になります。これにより、国産肉との価格差を和らげているのです。
2. コメへの厳しい制限
日本のお米は特に保護されている物品の一つですが、「ミニマムアクセス枠」と呼ばれる仕組みによって、以前より大幅に低くなりました。ミニマムアクセス枠はTQ(関税割当)とは異なり、一定量の外国産品を輸入することを義務づける枠であり、WTO協定に基づいて導入された制度です。日本では年間77万トンの輸入米がミニマムアクセス枠となっており、この枠内であれば無税となります。ミニマムアクセス枠外の輸入米に課せられる関税は1キログラムあたり341円であり、関税率換算は約227%となっています。トランプ大統領は700%と言っていますが、大きな間違いです。
トランプ大統領が掲げる「America First」の貿易政策は、非常に強硬であり、攻撃的であり、流動的でなかなか実態が掴めません。なぜトランプ氏は関税を引き上げようとしているのでしょうか。
1. 製造業の国内回帰(リショアリング)
トランプ大統領は第一次大統領選以来、アメリカ国内の産業空洞化を問題視し、「関税で海外製品を高くし、国内製品を選ばせる」政策を主張しており、それがまた再燃しています。再び政治の表舞台に戻った今、その方向性はさらに強化されています。
2. 対中強硬姿勢の再燃
中国との貿易赤字・技術流出・安全保障問題を理由に、中国製品への高関税(100%以上!)を実施し、中国もこれに負けじと対応措置を取り、米中貿易戦争の再発が起きています。
3. 財政赤字の穴埋めと国内世論
米国内では財政赤字が依然として拡大しており、関税は国民への直接課税ではなく、外国に「支払わせる税金」というロジックで支持を集めています。いったい米国民は「関税は最終消費者が負担するもの」と理解しているのでしょうか。
では何故世界中を揺るがしているのでしょう。トランプ関税が世界に与える影響はどのようなものでしょうか。
1. 世界貿易の冷え込み
高関税によって米国内での販売価格が高騰し、米国内での消費が冷え込むことにより米国向けの輸出が縮小します。特に新興国の輸出産業は打撃を受け、グローバルサプライチェーンが分断されるリスクが高まります。
2. インフレ圧力の増大
関税は輸入物価の上昇=物価全体の押し上げ要因になります。アメリカ国内での物価上昇が続けば、FRB(米連邦準備制度)は再び利上げに踏み切る可能性もあり、世界的な金融不安を引き起こしかねません。
3. 企業の投資判断に影響
例えば、日本企業が中国や東南アジアで生産し、米国に輸出するビジネスモデルが直撃を受けます。トヨタやソニーなどのグローバル企業は北米生産の拡充やサプライチェーン再編を迫られる場面が増えるでしょう。現に社内で連日検討を重ねているはずです。
それでは今後どうなるのでしょうか。現在、トランプ氏が再選される前から、各国はリスク分散のために「脱アメリカ依存」戦略を取り始めています。特に中国では第2次トランプ政権を見越して、対米貿易輸出の比率を25%まで落とし内需主導型経済に移行中であり、米中貿易戦争は中国に利があるように見えます。自動車輸出で経済を支えている日本も今が転換期なのかも知れません。
トランプ大統領の関税政策は、単なる税の上げ下げの話ではなく、「グローバル経済のルールを誰が作るのか」という大きな問いを突きつけている気がします。関税一つで経済の流れも、政治の風向きも変わってしまう。武器にも凶器にもなる。それが関税の怖さでもあります。
関税は一見すると国家間の経済戦争のような印象を与えるかもしれませんが、実際には非常に繊細で複雑な政策ツールです。日本も例外ではなく、農業をはじめとした重要な産業を守るために関税政策を活用しています。国際化が進む中で、関税の在り方も少しずつ変わりつつあります。消費者としても関税の存在を知ることで、輸入品に対して、より深い理解が得られるのではないでしょうか。
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